モンキーパンチの名産地

話の継ぎ穂になやむころ、だれに聞いても答は変わらないような質問を投げあうことがある。
たがいの出身地の話題につづき、誰か同郷のものがいたろうか、ああ有名人の何某が、それはそれは。何某を見たことすらなくても、同じものが頭に浮かぶことで、親しみがいくらか増す力をもっている。
『面白南極料理人』(西村淳/新潮文庫を読んでいるさなか、そんなことを思い返していた。

作者は観測部門をささえる設営部門として、南極観測隊に参加した。
料理担当の身で、隊員たちのリクエストに、なんとしてでも応えてやるのだと決めている。
行く手の極地では、なにもかもがかぎられる。出発前の、食料の調達から問題があった。
凍って質が変わるものが大問題。卵と野菜をどうにかしないと、つくれるものが途端にかぎられる。本をあたっても、家庭のちょっとした冷凍庫保存テクニックしか見つからない。

だが執念で探した結果、見つけた!さすがハイテク立国 JAPAN!! 冷凍ジャガイモをまず見つけた。メーカーは本場北海道「ホクレン」だった。 p.30

トヨタレンタリース」「オートバックス」と変わらない。
CMを何年も見ていなくても、「ホ・ク・レ・ン」と音階つきで頭の中に再生されていた。
北海道留萌市出身の作者は、ローカルな名詞をふんだんにつかう。
持ち込む食料に「サッポロ一番みそラーメン」は顔を出すし、愛する食べ物ナンバーワンは「ざんぎ」。
いきおい、極地の寒さにまで入れ込んでしまう。

5月に入った。北海道ではまだちょっと肌寒いが、日中はさわやかな春の風が吹き抜けているはずである。ドーム基地はと言えば、日中の気温は最高でもマイナス50℃くらいまでしか上がらない。マイナス20℃、30℃で震え上がっていたS16作業を思い出し、「そんな熱帯みたいな気温のときもあったんだ」なんてヨタをとばすほど、ここドームの住民は確実に、厳冬期・耐寒・超低温仕様に変わりつつあった。 p.181

マイナス10℃以下が続く旭川で、最高気温がマイナス3℃で「今日はあったかいね」と口走ったあと、自分でもなにかまちがっているな、と感じたことを思い出す。感覚には似たものをみてとりながら、より倍加する寒さはつかめない。あるある、と、ないない、が交互にやってくるのがむしょうに楽しい。

オネエことばを駆使するメンバー、福田ドクターがkokoroshaさんに重なって困った。

「雪の中は暖かいと言うけれど、ここはどうなのかしら?ちょっとやってみようかなと思うのだけれど、誰か私を埋めてくれる?」 p.169

マイナス66℃でこんな名言を吐くドクターは、のちの燃料危機を救うスターでもある。