ドトール人間模様

ミラノサンドのCが好きで、ドトールによく通う。
三種あるうち、めまぐるしく変わるCは、アルファベットのA、Bに比べて、いかにも指に引っ掛けたら回りそうな字面をしている。

サイズはどういたしますか、と言われて、少し考えたあとに「なかほどで」と言うご老人。「ショートで」と澄ましたお嬢さん。
書類に判を迫る美人に、すっかり気圧された若者が中央の丸テーブルにいる。
最寄のアールビバンのやりとりが持ち越されてきたものか、金融商品の勧誘か、遠目にはわからなかった。

煙がこごった席に落ち着き、あとからやってきた親子連れ、父親が取り出すマイルドセブンが目の端にとまった。
はじめから険がある会話は、どうやら別居中の生活費交渉のようで、丑の日だというのに鰻ひとつ食べられないと、母親がうったえる。食べたらいいじゃないか鰻くらい、食べられたら言いはしない、「くらい」と言えるのが余裕の証だ。
鰻を軸に、交渉にすりかわる会話をよそに、子供はこちらを向き、あてつけるように何度も咳こんでみせる。
目の前の煙から、さぞ目を背けたかったことだろうと、今では思う。
(2008/5/20 編集)