水にあらわれるもの

京都の四条河原町あたりは、夜半をすぎるとあぶなっかしい。
水商売の客引きとスカウトがひしめいていて、少しでも目をひくような女性は、横断歩道の信号待ちで足を止めるのもうとましそうにみえる。
繁華街に古都を求めるひとは少ないとしても、始終黒服が目を光らせる歩道を目にしたら、いくらかは幻滅するようにも思う。

すでに水商売に足を踏み入れているのかと思わせる女性を、このあたりでは何度か見かけた。
四条のジュンク堂あたり。
肩をむきだしにしたドレスで、斜めに裁断されたフリルのすそをさばきながら、携帯で話しながら足早に通り過ぎていった彼女。
高島屋一階のフロア。
L字になった細い腕に、服屋の紙袋をいくつもさげた彼女。とりどりに並べられた新色のアイシャドーや何かを吟味している後ろでは、セカンドバッグをさげた背広の男性が、ひかえていた。
四条大橋の西にあった、ドトールの二階。
円卓の一角で、二つ折りの卓上鏡を前に、左手にチョコラBBドリンクを置き、右手には携帯ガスコテ*1の準備おこたりなく、煙草も吸いながら携帯に応じ、化粧も直していた彼女。
自分がいかにもと思った理由は、どこにあったろう。

わきをいろどる小物のせいだけでなく、あわさった何かのような気がしている。華やかな見た目と、事務的なやりとり。どこか投げやりな感じもするのに、慎重な準備。あたりを散らかすだらしなさと、姿勢の正しさ。
どこか、ちぐはぐなものが感じられたせいだろうか。

街中で結婚式帰りと思われるドレス姿を見るたび、同じドレス姿だとして、いったい何がちがうのだろうと、幾度となくいぶかしむ。

*1:巻き髪をつくる円筒状ヘアアイロン